1年12カ月を表す日本の言葉の中で、師走に次いで有名と思われるのが、弥生なのではないでしょうか。
ちょっと考えてみるだけでも、友達の女性の名前や、芸能人の芸名、会社名に会計ソフト、美術館の名前まで、身の回りのたくさんの場面で弥生という言葉は愛されています。映画のタイトルにもなって話題になりましたね。
この弥生という言葉は、カレンダー上の3月を表しています。こんなに多くの場面で使われているからには、きっと3月という意味以外にも、素敵な由来があるのでしょう。
少し理解を深めてみれば、当時どんな思いでこの季節を人々が過ごしていたのか、わかるかもしれませんよ。
目次
「弥生」はいつ?何月?読み方は?旧暦の場合はいつからいつまで?
弥生時代のイメージからか、なんだか古き良き日本を連想する言葉ですよね。
3月生まれの女の子に弥生という名前がついているのも、3月の確定申告用の会計ソフトに使われているのも、このためなのかもしれません。
ですがこれは、現在採用されている新暦に基づいたものです。
旧暦の場合はいつからいつまで?
旧暦では現在新暦で言う3月下旬~5月上旬辺りを指していたようです。
新暦の弥生はまだまだ寒い日も残るころですが、本来はかなり春らしくなった頃のことだったのですね。
弥生の意味由来・語源は?
弥生の「弥」の字は、弥生という言葉以外では、和弥などの男の子の名前などでも見かけることがありますね。
「弥」はもともと「彌」という字でした。この字は弓の弦の端と端を合わせると言う意味があり、そこから端まで行き渡るという意味になりました。その後「弥」となった時に意味が派生して、「ますます、いよいよ」などの意味を持つようになりました。
「生」はもちろん木々などの自然が生まれることを意味しますから、たくさんの命が芽吹き、ますます満ちていく様子がイメージできますね。
日本には「木草弥や生ひ茂る月(きくさいやおいしげるつき)」という言葉がありました。
それが転じて「弥生(いやおい)」、そして「やよい」と呼ぶようになったようです。
生き生きと春が始まる様子が目に浮かぶようですね。
弥生の別名は?他の呼び方もある?
この季節は、冬が終わり陽気が良くなっているからか、とってもロマンチックなものが多いです。
花見月(はなみづき)
旧暦の弥生の頃は桜が咲いていますよね。花を楽しんでいる季節という意味です。
花惜月(はなおしみづき)
「花惜月(はなおしみづき)」と言う別名もあります。
桜はすぐ散ってしまいます。その名残惜しい思いから来ているのでしょう。
夢見月(ゆめみつき)
「夢見月(ゆめみつき)」との呼び方もあります。
春は眠くなるから…というわけではなくて、昔は桜のことを夢見草と言っていたのだそうです。
確かに夢の中にいるような美しさがあります。
晩春(ばんしゅん)
また、旧暦では1~3月を春としていたため、3月は春の終わり、「晩春(ばんしゅん)」とも呼ばれていたようです。
雛月(ひいなつき)・蚕月(かいこづき)・鶯乱啼(おうらんてい)
雛祭りがあることから、「雛月(ひいなつき)」、蚕が卵から孵化する季節なので「蚕月(かいこづき)」、ウグイスの季節で「鶯乱啼(おうらんてい)」など、美しい名前がたくさんあります。
弥生の季節にはみんなが動き出し、ウキウキするようなことがたくさんあったようですね。
弥生を季語に使った俳句はどんなものがある?
濃かに 弥生の雲の 流れけり
文豪夏目漱石の詠んだ句です。
濃かというのは、細かいという意味ではなく、厚みのある濃い雲という意味になります。
春になって、突き抜けるような明るい青空に、もこもことした白い雲が流れている様子がわかりますね。
降りつづく 弥生半ばと なりにけり
弥生の季節は明るさの反面、雨も多いものです。雨が降ったまま、月の半ばとなってしまったなあという高浜虚子の句になります。
きさらぎを ぬけて弥生へ ものの影
如月の2月は、まだ寒々しさが残っていました。
ですがその暗さを抜けて弥生の明るさへ突入したから、冷たかった影も見え方が違うという句です。女性らしい繊細なものの見方を感じる林信子の句です。
弥生の時期は春へと移行する季節です。俳句にもそんな移り変わりが織り込まれていますね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。弥生は、長かった冷たい季節が終わり、明るさを感じ始める季節ということがわかりました。
現代でも弥生の季節は冬の終わりであり、ものごとの終わりと始まり、出会いと別れの入り乱れる季節です。
弥生の言葉の背景を知ってみると、どの時代の人々も、この命の芽吹く心が湧きたつ季節には、いろいろな変化を感じていたことがわかります。
現在の私たちが、春の訪れとともに明るい1年を思いめぐらすように、昔の人々もきっと弥生の頃には、希望に胸を膨らませていたのでしょうね。